sakura542gouのブログ

日々思うこと色々書いてます。今年は空と結婚し、新たな生活が始まりました。

新幹線の台車枠亀裂問題

 12月11日、のぞみ34号東京行きの13号車で、台車に亀裂が見つかり、その亀裂が破断寸前まで進んでいた問題。このニュースは鉄道ファンのみならず、多くの人々に大きな衝撃を与えました。
 博多を出発して、まず最初に異変が現れたのが小倉到着前。異臭がするという乗客の通報があったわけですが、乗務員は列車の運行を続けました。さらに、岡山到着前には車内にもやが立ち込め、異音・異臭がするということで、岡山から保守担当者が乗車して、新大阪で床下の点検をするように、東京の運輸指令所に連絡。ところが運輸指令所の担当者が他の用事に気を取られて、保守担当者からの提言を聞き漏らし、保守担当者は提言が伝わった・運輸指令所の職員は何か異常があれば保守担当者から連絡があるはずと思い込み、その結果、異常が放置されたまま、最初の異変が報告された小倉からおよそ3時間にわたって、運転を継続させるという事態になりました。
 名古屋で運転を打ち切って、台車を調べたところ、台車枠に、およそ14センチにわたって亀裂が走っており、あと3センチ亀裂が伸びていれば、台車枠が破断し、脱線転覆の恐れがあったということでした。
 この異常事態が放置された背景には何があったのか、私なりに考えてみました。まず、異常を異常と感じる感覚が薄かったのではないかということです。私の会社では「異常とは、正常な作業を遂行することが出来なくなったすべての状態」だと定義されています。その異常の中には、機械的なもの、あるいは、何らかの理由により作業進行が遅れてしまい、作業に追われている状態などが挙げられます。そして、何か異常を感じたときには、躊躇することなくコンベアーを停止させるようにと、徹底的に教え込まれます。それは仕事を安全にこなしてほしいという会社の願いでもあり、私たち作業者一人一人が心がけておかなければいけないことです。
 では、今回の新幹線の台車枠異常が放置されたまま、3時間以上にわたって運転を継続させた理由とはいったい何だったのでしょうか。まず、最初の異常が乗客から報告された小倉到着前の、乗務員の判断はどうだったのかということですが、異臭がするということは、何らかの異常が起きかけている可能性を認識する必要があったのではないかと思います。その異臭の発生源が車内からなのか、車外からなのか、きちんと見極める必要があったのではないかと思います。
 次に岡山到着前に報告された、もやがかかっている・異臭がする・異音が聞こえる。そういった異常が寄せられた時点で、運転を打ち切るという判断が下されてもよかったのではないかと思います。岡山から乗り込んだ保守担当者も、新大阪で床下点検をした方がいいと提言しましたが、運輸指令所とのやり取りで、お互いに情報の認識にずれがあったため、その結果新大阪で乗務員が交代する際に「異常なし」という報告がなされ、さらに名古屋まで運転が継続されるという結果となりました。
 私はこの背後には、乗務員に「新幹線を止める」という勇気がなかったのではないかというのがあると思います。確かに新幹線を長時間止めて、運転ダイヤに乱れが生じると、大きな損失をこうむることになります。運輸規定では、2時間以上の遅れを発生させた場合には、乗客全員に乗車料金・特急料金の払い戻しをしなければならないとあります。そうなれば、影響が東海道・山陽新幹線九州新幹線にまで広がり、何億円という料金を払い戻さなければならず、鉄道会社にとっては大きな損失となります。それが、列車の運転を打ち切るという判断を鈍らせたのではないかという点。それから、自分の乗務している新幹線に異常が発生していないと思いたくなる心理的な影響もあったのではないかと思います。(大規模な災害が発生し、危険が差し迫っている状況にもかかわらず、自分のいる場所は安全だと思いたくなる心理。進行性バイアスともよばれています)。
 今回の事象は、幸い台車枠が完全に破断する直前で運転が打ち切られたため、最悪な事態だけは避けられましたが、のぞみが名古屋を出発して、次に停まるのが新横浜。そのまま運転を継続させていたら、確実に台車枠が破断して、新幹線が脱線・転覆していたでしょうし、東海道新幹線は運転本数が都心の通勤路線並みにあるので、対向列車と激突していた可能性もあります。私が鉄道会社にお願いしたいのは、何か異常を感知したら、列車を止めるという勇気を持ってもらいたい。今回の事象ではそのことを強く望みます。